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舌側装置による矯正治療 ―力学的考察について―

舌側装置による矯正治療 ―力学的考察について―
Orthodontic Treatment with Lingual Appliance ―Dynamical study―

アスカ矯正歯科クリニック
  義澤 裕二
田中矯正歯科医院
  田中 勝治
ひまわり矯正歯科
  三根 治

1.はじめに
1970年代、Fujitaが世界で初めて舌側装置による矯正治療を発表1)して以来、数種類の舌側装置が新たに開発され今日に至っている。

舌側装置による矯正治療(以下、便宜上、舌側矯正と略す)と唇側装置による矯正治療(以下、便宜上、唇側矯正と略す)では、歯の抵抗中心に対する力の作用が異なる点、また、ブラケット間の距離が短い点などから著者らは当初、舌側矯正による治療を行う上で戸惑いを感ずることが多かった2)。そこで今回、舌側矯正の持つ力学的特徴を理解することが、このシステムの持つ臨床上の利点、欠点を把握する上で非常に重要であるとの認識から、舌側矯正における「力とモーメント」および「力とたわみ」について唇側矯正と比較しながら考察した。

「力とモーメント」、「力とたわみ」を考察する上でModern Edgewise Mechanics and The Segmented Arch Technique (C. J. Burstone著)3) およびCommon Sense Mechanics (T. F. Mulligan著4)、翻訳本:《明解》歯科矯正メカニクス5) )を参考文献として使用し、本文においては一部、両文献より改変した図を引用した。力とモーメント:抵抗中心に対する力線からの垂直距離と力の積がモーメントである。同じ力であれば垂直距離の大きい方がモーメントは大きくなる。力線が抵抗中心を通るときにはモーメントは生じない(玉突きの概念 図1A,B)。

力とたわみ:一方を固定したワイヤーに力を加えると「たわみ」が生じる。同じたわみを生じさせるための荷重は、ワイヤーの長さの3乗に反比例する。例えば、一方を固定したワイヤーにαmmのたわみを生じさせる力をFとすると、ワイヤーの長さを1/2にしたとき、同じたわみを生じさせるには8Fの力が必要となる。一方、ワイヤーの長さを2倍にしたとき、同じαmmのたわみを生じさせるには1/8Fの力が必要となる(飛び込み板の概念 図2A,B,C)。

センターベンドとオフセンターベンド:図3Aに示す様にセンターベンドでは、ティップバックベンドとトルクベンドが等しい角度関係にあり、垂直的な力はお互いに打ち消されて生じない。オフセンターベンドでは図3Bに示す様に、ティップバックベンドよりもトルクベンドが大きい場合、臼歯部に加わる圧下力が前歯部に加わる圧下力よりも大きいため、実際には臼歯部では圧下力、前歯部では挺出力が加わる。トルクベンドがティップバックベンドより小さい場合は臼歯部で挺出力、前歯部では圧下力が加わる。

2.舌側矯正と唇側矯正の「力とモーメント」の違いについて
図4に示す様なアングル・級1類のケースを上顎左右第一小臼歯抜歯、下顎非抜歯で治療する場合をモデルとして下顎および上顎における「力とモーメント」についてそれぞれ検討した。

A.下顎
スピー彎曲を持った下顎歯列にフラットなラウンドワイヤーを装着し結紮した状態を想定したとき、図5に示す様に垂直的な力は小臼歯部では歯冠側に、前歯部と大臼歯部では歯根側に向かって働く。このとき、切歯部、犬歯、小臼歯部および大臼歯部において、どの様なモーメントが生じているのかを舌側矯正と唇側矯正で比較検討した。参考資料として、ゴム枠に植立された人工歯に舌側装置(Ormco社製Kurzブラケット)を装着した模型を用いた。フラットなラウンドワイヤ一を装着した前後の状態を図6A,Bに示す。

a.切歯部:矢状断でみると、舌側矯正では唇側矯正と比較してブラケットに加わる垂直力が歯の抵抗中心に近いため、垂直力が等しいと仮定すると歯に加わる圧下力はより強く、また、モ一メントによって生じるラビアルクラウントルクはより少ない(図7A)。舌側傾斜の強いケースや歯根が短いケースではリンガルクラウントルクが生ずることも考えられる(図7B,C)

そのため、臨床上以下 のことが考えられる。

利点(1):D.Trammellは唇側矯正において、下顎前歯に-5°のトルクを付与することにより、下顎歯列弓に他の力は一切加えることなく、-6°のアンギュレーションを組み込んだ下顎第一大臼歯が直立し、下顎前歯の位置はほとんど変化しないことを示した6)。したがって、ラビアルクラウントルクが生じにくい舌側矯正においては、大臼歯部を直立しスピー彎曲を改善する際に、唇側矯正よりも強い固定源を下顎前歯部に求めることができる、と考えられる。

利点(2)圧下力がより強く働くため、バイトオープニングイフェクト7), 8) (図8)によるバイトオープニングはより効果的になると考えられる。但し、上顎第一小臼歯抜歯ケースでは欠点となる面もあるので、詳細に関しては上顎の項で述べる。

b.犬歯:前額断でみると舌側矯正では基底結節部にブラケットが装着され、スロット部はかなり舌側に位置するため唇側矯正と比較して、ブラケットに加わる歯根側への垂直力は歯の抵抗中心に対してほとんどのケースで舌側に位置するものと考えられる。そのため、モ一メントによりリンガルクラウントルクを生じる(図9)。したがって、臨床上以下のことが考えられる。

欠点:適宜にトルクをコントロールしないと、頬側皮質骨に歯根が圧迫される傾向が生じる。

c.小臼歯部:前額断でみると舌側矯正では唇側矯正と比較して、ブラケットに加わる歯冠側への垂直力は歯の抵抗中心に対して舌側に位置するため、モーメントによりバッカルクラウントルクを生じる(図10)。したがって、臨床上以下のことが考えられる。

欠点:逆スピー彎曲を与え過ぎると、小臼歯部は頬側にふくらむ傾向を生じる(図6B)。したがって、非抜歯ケースであっても本来トランバースボーイングイフェクトを防止するためのボーインベンド7).9).txt10)(図11)を付与し、歯列弓の膨らみを抑える必要がある。

d.大臼歯部:前額断でみると舌側矯正では唇側矯正と比較して、ブラケットに加わる歯根側への垂直力は歯の抵抗中心に対して舌側に位置するため、モ一メントによりリンガルクラウントルクを生じる(図12)。

B.上顎
舌側矯正においては唇側矯正と比較して前歯部のリトラクションの際、前歯部のトルクの維持が困難であるとされている。そのため、同じ第一小臼歯抜歯でも傾斜移動を主体とした下顎と比較して、上顎において特に歯体移動で前歯部のリトラクションを行う必要があるケースでは、十分に「カとモ一メント」を把握することが不可欠であると考えられる。

a.前歯部:舌側矯正と唇側矯正で同じ量のトルクをワイヤ一に与えた場合 、どの様な力がどの程度生じているのかを図13に示す。舌側矯正と唇側矯正で 同じたわみmを加えたときの力をそれぞれF、F'とすると、F=F'×(1.51/1)3 ≒3.4F' 、唇側矯正と同じトルクを加えたとき、たわみ量はこの場合2/3となるので必要な力F"はF"=F×2/3=3.4F'×2/3≒2.3F'となる。

つまり、図13に示す状態においては同じトルクを得るために、舌側矯正では唇側矯正の約2.3倍の力が必要となる。著者らは臨床経験上、舌側矯正では 一歯当りに加わる力が強いため、歯根や歯周組織の保護を考慮し、ワイヤーには唇側矯正よりも弱いベンドを付与する様に心掛け、また、前歯部リトラクションの際ラビッティングを生じやすい点から、前歯部には少し強めのラビアルクラウントルクを付与していた( 図14A')。

しかし、この様なワイヤ-を使用すると前歯部よりのオフセンターベンドとなり(図14A)、唇側矯正、舌側矯正ともに前歯部に加わる圧下力P、P'は弱く、臼歯部に加わるそれぞれの圧下力F'、F"、特にF"は前歯部に加わる圧下力P'に比べてかなり大きいものとなる。その結果、唇側矯正、舌側矯正それぞれにおいて垂直力として臼歯部にはF'-P、F"-P'の圧下力が加わり、前歯部にはその反作用とし てF'-P、F"- P'の挺出力が加わる(図15)。

この挺出力は舌側矯正においては唇側矯正の約2倍であり、その結果、図16に示す様に、抵抗中心の唇側に歯冠部方向に力線が作用するため新たなモーメントによりリンガルクラウントルクが生じ、ワイヤ一に付与したラビアルクラウントルクの一部をキャンセルしてしまう。またこの状況下で前歯部のリトラクションを行うとブラケットから遠心方向に力線が作用し、新たなモ一メントによりリンガルクラウントルクが加えられ(図17) 、ワイヤ一に付与したラビアルクラウントルクの一部はさらにキャンセルされる。つまり、以下の図式が成り立つ(図18)。

総体的には上顎前歯部に期待した程のラビアルクラウントルクはかからずに、歯列全体は時計回りに回転していくものと考えられる。また、舌側矯正にお いては前歯部をリトラクションする際に、バーティカルのボーイングイフェクト7)(図19) が生じやすいことが知られているが、上述した様に前歯部に加わる挺出力と遠心方向への力によって生じるリンガルクラウントルク(図16、17)がその要因の一つであると考えられる。

センターベンド(図14B)の場合は一歯に加わる力を考慮すると前歯部には十分なラビアルクラウントルクは付与できないので、前歯部に挺出力が生じないセンターベンドであってもラビアルクラウントルクはかかりにくいものと考えられ、一方では臼歯部には圧下力も加わらないため前歯部よりのセンターベンドにおけるリンガルクラウントルクによる皮質骨固定(図20,21)も得られない。

臼歯部よりのオフセンターベンドでは図14Cに示す様に前歯部に挺出力は加わらないが、十分なラビアルクラウントルクは得られない。つまり、舌側矯正における上顎抜歯ケースではセンターベンド、オフセンターベンドのいずれにおいても前歯部にラビアルクラウントルクはかかりにくいが、前歯部の挺出さえ抑えることができれば前歯部よりのオフセンターベンドがラビアルクラウントルクを付与するためには一番有効であり、また、臼歯部に加わる圧下力により皮質骨固定が生じ、アンカレッジにおいても有利であると考えられる。一般的に上顎第一小臼歯抜歯ケースにおいては前述した様に前歯部よりのオフセンターベンドになるので、後述する内容はこれに則っている。

尚、下顎第一小臼歯抜歯ケースでは前歯部のリトラクションは主に傾斜移動となるので、上顎前歯部の様なラビアルクラウントルクをワイヤ一に付与する必要はなく、したがって、センターベンドあるいは臼歯部よりのオフセンターベンドとなり(図22A,B)前歯部に挺出力は加わらないものと考えられる。

ここでバイトオープニングイフェクトについて考えてみる。

(1)ワイヤーを装着していなければ、図23Aに示す様に上下顎前歯部の圧下(全体的には上顎前歯部の方が下顎前歯部よりも大きいため、圧下量は下顎前歯部の方が大きいと考えられる。)と臼歯部の挺出によりバイトオープニングイフェクトが得られるものと考えられる。

(2)上顎第一小臼歯抜歯、下顎非抜歯のケースでは前述した様に、大臼歯部には圧下力が加わるため(図5、14A)バイトオープニングイフェクトは前歯部の変化によって得られる。フェイシャルパターンやワイヤ一に付与したラビアルクラウントルクの量にもよるが上顎前歯部には挺出力、下顎前歯部には圧下力が加わっている点、また、歯の大きさから考えると上顎前歯部では挺出か原状維持、下顎前歯部では圧下が生じバイトオープニングイフェクトが得られるものと考えられる(図23B)。

(3)上顎第一小臼歯抜歯、下顎第一小臼歯抜歯のケースでは上顎大臼歯部には圧下力が加わるが、下顎大臼歯部には次に示す二つの状況が考えられる。

(a)センターベンドの状態、アンテリアーセグメントはポステリア一セグメントより小さいので実際には下顎前歯部は少し圧下するものと考えられる(図22A)。

(b)臼歯部よりにオフセンターベンドの状態で前歯部には圧下力が加わる(図22B)。

(a)の場合バイトオープニングイフェクトは前歯部の変化によって得られる。フェイシャルパターンやワイヤ一に付与したラビアルクラウントルクの量にもよるが上顎前歯部には挺出力、下顎前歯部は少し圧下する点、また、歯の大きさから考えると上顎前歯部では挺出か原状維持、下顎前歯部では圧下が生じバイトオープニングイフェクトが得られるものと考えられる(図23C)。

(b)の場合バイトオープニングイフェクトは下顎大臼歯部の挺出と前歯部の変化によって得られる。上顎前歯部には挺出力、下顎前歯部には圧下力が加わっている点、また、歯の大きさから考えると上顎前歯部では挺出か原状維持、下顎前歯部では圧下が生じバイトオープニングイフェクトが得られるものと考えられる(図23C)。
著者らが経験した舌則矯正で治療を行なったアングル・級1類、上顎抜歯ケースおよび上下顎抜歯ケースにおける術前、術後のFacial axis(FX,°)、U1 to Frankfort plane(U1 to FH,°)、U1 incisal edge to Palatal plane(U1 to PP,Perpendicular distance,mm)、L1 incisal edge to Mandibular plane(L1 to MP,Perpendicular distance,mm)、Occlusal plane to Frankfort plane (OP to FH,°)それぞれの変化を表1に示す。考察については後述する。

したがって、臨床上、以下のことが考えられる。

利点:前歯部よりにオフセンターベンドを付与することで前歯部に強い挺出力、臼歯部に強い圧下力が生じるため、オープンバイトの治療には有効である。         
欠点(1):上顎抜歯ケース、あるいは上下顎抜歯ケースにおいては何か工夫をしないと咬合平面の傾斜が強くなるため、いわゆるガミ一スマイルの積極的な治療ができない、また、咀嚼運動の際、臼歯部のディスクルージョンが弱く、早期接触を起こしやすくなる、などの欠点が生じる。

欠点(2):上顎前歯部のボディリィなリトラクションが困難である。
上記の欠点をカバーするためには前歯部に加わる挺出力を抑えるための工夫が必要となる。著者らは上顎前歯部のリトラクションを行う際、図24に示す様なレジンのキャップを作製しハイプルJフックタイプのヘッドギアを使用している。治療例を図25A、B、C、表2に示すが、顎内および顎間固定を使用せずハイプルJフックタイプのヘッドギアのみを用いることでマキシマムアンカレッジが得られ、しかも前歯部の挺出は生じることなく十分にトルクをコントロールしながらリトラクショ ンを行うことができた。

治療にはKurzブラケット(0rmco社製)をC.L.A.S.S.(Custom Lingual/ Labial Appliance Set-up Service)システムにて使用した。b.小臼歯部および c.大臼歯部:前額断でみると舌側矯正では唇側矯正と比較して、ブラケットに加わる歯根側への垂直力は歯の抵抗中心に対して舌側に位置するため、モ一メントによりリンガルクラウントルクを生じる(図20,21)。

したがって、臨床上以下のことが考えられる。
利点:皮質骨固定により強固なアンカレッジが得られる。

3.舌側矯正と唇側矯正の「力とたわみ」の違いについて
舌側矯正ではブラケット間の距離は唇側矯正と比較して短い。図26に示す様に、仮にある部位においてブラケット間の距離が2倍違うとすると同じ量のたわみを加えた場合、歯に加わる力は舌側矯正においては唇側矯正の8倍となる(図2)。そのため、臨床上以下のことが考えられる。

欠点(1):ライトフォースを心がけないと、一歯に加わる力は唇側矯正と比較して強いものとなる。
欠点(2):ワイヤ一とブラケット間のフリクションが強く、スライディングメカニクスを用いる場合は唇側矯正と比較してスムースな動きは得にくい。

4.症例呈示
次に、顎内、顎間および顎外固定を用いずに舌側矯正で治療を行なったアングル・級1類、片顎抜歯の症例を呈示し、ワイヤーの力とバイトオープニングイフェクトのみによる舌側矯正の力学的特徴について考察したい。

症例
A.患者:初診時年齢40歳10カ月の女性。主訴は上顎前突、叢生である。側貌においては上下口唇の突出が認められる(図27B)。第一大臼歯の咬合関係は両側とも・級でオーバーバイトは6mm、オーバージェットは8mmである。上顎前歯部には中等度の叢生、下顎前歯部には中等度の叢生(アーチレングスディスクレパンシー:-3mm)と著しい咬耗が認められる。スピー彎曲は-5mmである。頭部X線規格写真所見を図27C、表3に示す。

B.診断:ブレイキーフェイシャルパターンのアングル・級1類。

C.治療法:下顎前歯部の位置(L1 to APO;+4mm)、アーチレングスディスクレパンシー; -3mm、第一大臼歯の強い・級関係などから上顎左右第一小臼歯抜歯、下顎非抜歯による大臼歯部・級仕上げを目標とした。治療にはKurzブラケット( 0rmco社製 )をT.A.R.G.(Torque Angulation Reference Guide)システム7).8).11)にて使用した。全治療期間中、顎内、顎間および顎外固定は使用しなかった。

D.治療経過:治療経過、治療結果を図27A、B、C、表3に示す。

5.考察
舌側矯正では下顎を非抜歯でレべリングする場合、図7Aで示す様に唇側矯正と比較して前歯部のフレアーアウトは生じにくいと考えられる。呈示症例ではアーチレングスディスクレパンシーが-3mmあり、下顎のレべリングの際、顎内、顎間および顎外固定を使用しなかったにもかかわらず、図27C、表3に示す様に前歯部のフレアーアウトを生じることなくレべリングが達成されており、レベリングにおいて前歯部が固定源と成り得ることが確認された。

舌側矯正では唇側矯正と比較してブラケット間の距離が短いため、荷重たわみ率の関係から一歯当りに加わる矯正力は強くなりがちである。上顎第一小臼歯抜歯ケースにおいて上顎前歯部をリトラクションする際にも、唇側矯正と同じ量のラビアルクラウントルクを加えた場合、前歯部には約2倍の力がかかることになり歯根や歯周組織の保護を考慮するとワイヤ一には唇側矯正よりも弱いベンドを付与する必要がある。この様な条件下では前歯部に付与するラビアルクラウントルクが優先され、図14Aに示す様な前歯よりのオフセンターベンドになるため舌側矯正では図18に示す様な「悪循環」が生じやすい。

著者らの経験したアングル・級 1類、上顎抜歯ケースおよび上下顎抜歯ケースでは表1に示す様に上顎前歯では平均1.8mmの挺出が、下顎前歯では平均2.3mmの圧下がみられ、咬合平面は平均3.8° 増加しており、また、FXの変化は0.2°と少なかった。

「下顎前歯部」および「上顎前歯部」の項で示した様に舌側矯正では、下顎において、前歯部はワイヤ一の力によって非抜歯ケースでは圧下力、抜歯ケースでは原状維持か圧下力、大臼歯部は非抜歯ケースでは圧下力、抜歯ケースでは原状維持か挺出力が加わり、上顎においてはリトラクションの際オフセンターベンドの状態となり前歯部には挺出力、大臼歯部には圧下力が加わるため、バイトオープニングイフェクトは主に前歯部の変化によって得られる。つまりFXに大きな変化は生じない。

また、上下顎前歯部の大きさ、ワイヤ一によって生じる力から判断するとバイトオープニングイフェクトは上顎前歯部の挺出か原状維持、下顎前歯部の圧下によって得られる、などの点が確認された。U1 to FHにおける変化量の平均値は-18.8°であり図18に示したラビッティングの傾向が確認された。顎内 、顎間および顎外固定を使用せずに治療した呈示症例においても、同様の傾向が認められた(図27C、表3)。

したがって、舌側矯正では上顎前歯部をリトラクションする際に前歯部のバーティカルコントロールに工夫をしないと、ガミ一スマイルの積極的な治療やボディリィなリトラクションが十分にできない、また、咬合平面の傾斜が強くなるために早期接触が生じやすくなる、といった問題を解決できない。著者らは前歯部のバーティカルコントロールに図23に示す様なレジンのキャップを作製しハイプルJフックタイプのヘッドギアを用いることで対処しており、まだ統計的に各計測項目を検討するまでに至つてはいないが、図25A、B、C、表2に示す様に前歯部は十分バーティカルコントロールおよびトルクコントロ ールされ良好な結果を得ている。

抜歯ケースにおいて上下顎大臼歯部に加わる圧下力はモ一メントによりリンガルクラウントルクを生じ、皮質骨固定による強固なアンカレッジが得られる。呈示症例においても顎内、顎間および顎外固定を使用しなかったにもかかわらずモデレイトアンカレッジにて治療が達成され(図27C、表3)、強固なアンカレッジが確認された。

6.結論
(1)舌側矯正では下顎非抜歯のレべリングにおいて、顎間および顎外固定を用いなくても前歯部のフレアーアウトは生じにくい。

(2)舌側矯正では上顎前歯部をリトラクションする際、前歯よりのオフセンターベンドとなりやすいため前歯部には挺出力が加わる傾向がある。この挺出力によってラビアルクラウントルクはかかりにくくなり、ラビッティングか生じやすくなる。

(3)上顎抜歯および上下顎抜歯ケースではバイトオープニングイフェクトは主に前歯部の変化によって得られるため、FXはあまり変わらない。前歯部の変化は上顎では挺出か原状維持、下顎では圧下である。その結果、咬合平面がスティープになるため、何か工夫をしないとガミ一スマイルの積極的な治療ができない、また、咀嚼運動の際、臼歯部のディスクルージョンが少なくなり干渉が生じやすくなる、などの欠点が生じる。

(4)上顎抜歯ケースにおける前歯部のバーティカルコントロールにレジンキャップを用いたハイプルJフックタイプのヘッドギアを用いた所、前歯部の挺出が抑制され十分トルクをコントロールしながらリトラクションできることが示唆された。

(5)上顎抜歯ケースにおいて大臼歯部に加わる圧下力はモーメントによりリンガルクラウントルクを生じ、皮質骨固定により強固なアンカレッジが得られる。

連絡先
  ・アスカ矯正歯科クリニック  義澤 裕二
   千葉県柏市旭町1-2-8 ネモト第3ビル4F
   TEL (0471) 46-2727  FAX (0471) 46-1742
  ・田中矯正歯科医院      田中 勝治
   岐阜県大垣市郭町3-25  
   TEL (0584) 73-8817  FAX (0584) 81-0101
  ・ひまわり矯正歯科      三根 治
   岐阜県各務原市那加住吉町1-16 木下ビル2F
   TEL (0583) 82-9955  FAX (0583) 80-1063

文献
1)Fujita, K. : Development of Lingual Bracket Technique, Esthetic and Hygiene Approach to 0rthodontic Treatment, J Jpn Res Soc Dent Mater Appliances, 46 : 81-86, 1978.

2)義澤 裕二、岩澤 忠正 : 舌側矯正装置によるAngle・級1類の治療ーT. A. R. G. システムによる2治療例ー ,Nihon Univ. J. 0raI Sci. 21 : 149-162,1995.

3)Burstone, C. J. : Modern Edgewise Mechanics and The Segmented Arch Technique, California, 1995, 0rmco Corporation.

4)Mulligan, T. F. : Common Sence Mechanics, Phoenix, 1982, CMS.

5)Mulligan, T. F.≪明解≫歯科矯正メカニクス,翻訳・監修  出口 敏雄,花田 晃治,東京,1994年4月,東京臨床出版株式会社.

6)Alexander, R. G. : アレキサンダーの矯正臨床, The Vari-Simplex Discipline, 東京, 1985年, 株式会社日本歯科出版, 19-20.

7)Smith, J. R. , Gorman, J. C. , Kurz, C. and Dunn, R. M. : Keys to Success in Lingual Therapy Part l, J Clin 0rthod, 20 : 252-261, 1986.

8)Gorman, J. C. : Treatment with LinguaI Appliances : The Alternative for Adult Patients, Int J Adult 0rthod 0rthognath Surg, 2 : 131-149,1987.

9)Gorman, J. C. , Hilgers, J. J. and Smith, J. R. : Lingual 0rthodontics, A Status Report Part 4 Diagnosis and Treatment Planning, J CIin 0rthod, 17 : 26-35, 1983.

10)Smith, J. R. , Gorman, J. C. , Kurz, C. and Dunn, R. M. : Keys to Success in Lingual Therapy Part 2, J CIin 0rthod, 20 : 330-340, 1986.

11)Marks, M. and Corn, H. : Atlas of Adult 0rthodontics, Philadelphia, 1989, Lea & Febiger, 607-622


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