2023/01/26
歯を守るための力のコントロール Ⅺ
こんにちは、歯科医師の武田です。
「歯を守るための力のコントロール」について数回にわけて
お話しさせていただいております。
どうぞよろしくお願いします。
◆ ガイドの位置~顎関節脱臼症例から考察する
側方滑走運動時における咬合接触は、滑走運動経路に影響を
及ぼすだけでなく、歯牙接触のない下顎運動経路にも影響を
及ぼしており、顎口腔機能における重要なファクターとなっています。
そこで今回は、起床時の右側顎関節習慣性脱臼を主訴とする症例から
考察します。この症例は側方滑走運動時に第2大臼歯のみが接触し、
他の部位での接触がみられず、咬頭嵌合位において前歯は切端咬合、
犬歯は両側とも下顎切端が上顎切端より唇側に位置、
右側下顎第2大臼歯は舌側に傾斜し、頬側咬頭外斜面に
上顎の口蓋咬頭外斜面が接触する咬合を有し、咀嚼時に自発痛はなく、
右側胸鎖乳突筋の圧痛のみ、外来診療中には脱臼は生じないケースです。
咬頭嵌合位において全歯列が均等に接触し、側方滑走時には犬歯部により
ガイドされ他部位は離開するレジン製のスタビライゼーションスプリント
を装着。その結果、装着の翌日から起床時の右側顎関節脱臼は消失した。
また、装着2週間後の来院時には、右側胸鎖乳突筋の圧痛は消失していた。
ガイドが治療に有効であったのかを考察するため、咬合面を被覆する
金属鋳造体によるガイドを左右それぞれの下顎第1小臼歯に製作した。
この症例では両側の犬歯は反対咬合となっており、ガイド付与はできない。
咬頭嵌合位は変えずに、側方滑走運動時には臼歯部の接触がないように
したため、患者固有のガイドと比べてやや急傾斜の経路をとることになる。
1週目に左側下顎第1小臼歯のみに金属ガイドを装着したが
脱臼は消失しなかった。
2週目に右側下顎第1小臼歯のみに金属ガイドを装着したところ、
その翌朝には脱臼は発生しなくなった。
この結果、脱臼側と同側の第2大臼歯の歯牙接触がなくなるように、
歯列の前方にガイドを移動したことが脱臼消失に有効であった。
側方滑走運動時においてガイドの位置を後方に移動させると
作業側顆頭の運動範囲は外側下方に拡大する傾向がみられ、
その移動量はガイドが後方歯に移動するほど増大する、作業側顆頭の
移動量が増大することで、顆頭の安定が失われて顆頭の回転が
制限される、これが脱臼の発生と関連しているのではと考えられる。
健常者においても最大開口時に下顎頭は関節結節より前方に位置する。
上下中切歯間距離35mmですでに顎関節に症状をもたないものの83.5%
で下顎頭は関節結節下かその前方に存在する。顎関節は他の関節と異なり
正常な状態でも関節窩外に移動する唯一の関節である。
よって顎関節に対して脱臼という表現は不適切という意見もある。
健常者の最大開口時と、脱臼時の下顎頭の相違点は、脱臼時は
関節結節前方においてより上方へ位置している、よって窩外位に
固定された状態の原因の追究には、関節結節を越えた時点で下顎頭を
上方に牽引固定する要素について考慮すべきと考えられる。
すなわち下顎頭が関節結節を越え窩外位にあるとき、
外側翼突筋が収縮したまま、咬筋、側頭筋などの閉口筋が収縮したことが
円板動態異常と相まって下顎頭を窩外位のままで固定させることになった
のではないかと考えられる。
最大開口終末になると、咬筋、側頭筋が拮抗筋として働き、
自発的開口の限界を設定し、さらに開口することを防止して顎関節を
脱臼から保護している。この神経筋機構が障害されていることが
原因として考えられる。下顎頭が前方滑走する際に、外側翼突筋
の収縮は顎関節円板と下顎頭を関節結節後斜面に押しつけさせ安定させる
ことになっているが、下顎頭が窩外位にあるとき、窩内位における
関節結節後斜面のような円板の上面の支えが失われ、前述の筋肉の非協調は
下顎頭の上前方への牽引固定をもたらし、一方関節円板は円板後部結合織
による前方運動の制限や、結合織内の伸展した弾性繊維の復元力による
後方への牽引力をうけ、結果として下顎頭と円板との位置のずれが生じ、
下顎頭が円板前方肥厚部より前上方に位置することで、
閉口時に前方肥厚部が下顎頭の後方滑走の機械的障害となってしまう
と考察できる。
次回はこの続きで、習慣性顎関節脱臼についてお話していきます。
歯の健康、美しさを保つには、
定期的なクリーニングがとても大切です
ぜひタニダ歯科クリニックで定期健診を。
ご来院お待ちしております。