「安全に美味しく⑦〜摂食・嚥下障害に対する直接訓練〜」

タニダ歯科医院ブログ

西宮市の「タニダ歯科医院」がお送りするブログです。

「安全に美味しく⑦〜摂食・嚥下障害に対する直接訓練〜」

こんにちは。歯科医師の村重です。
4月を迎え、新しい生活が始まった方も多いのではないでしょうか。
慣れない環境は体調面にも影響を及ぼしやすいので、みなさんご自愛ください。
さて、前回のブログでは摂食・嚥下障害における「間接訓練」についてご紹介しました。

今回は「直接訓練」についてお伝えしようと思います。
直接訓練は残存能力を有効に活用して「食べる」ことを繰り返し
練習することにより、損なわれた機能を改善させる機能回復訓練です。
食物物性の調整、姿勢調整などの即時効果のある代償手段と、
嚥下反射を惹起させる方法、患者にあった食具や補綴物等を組み合わせて、
もっとも効率よく、安全に摂取できる条件設定が重要といえます。

1)食物形態の調整
 食物物性は、かたさ、凝集性、付着性、すべりの程度などによって表されます。
摂食・嚥下障害の中心が口腔期なのか、咽頭期なのか、その重症度に応じて、
適切な食物物性を決める必要があります。
一般的に摂食・嚥下障害が重度な患者に対する直接訓練開始時の食形態は、
柔らかく、均一でまとまりがよく、ベタつかず、すべりがよいゼリーや
とろみ水が適しています。

その一例として崩れずに咽頭を通過しやすい、梨状窩におさまりやすく
嚥下反射の遅れによる残留や誤嚥を軽減できるスライスゼリー丸飲み法があります。
とろみの濃度については日本摂食嚥下リハビリテーション学会が
基準を発表していますので、統一された基準として参考になります。

2) 姿勢の調整
 姿勢調整は、安全な摂食のために体内の空間を操作し、
空間にはたらく重力の影響を考慮して食塊の移送障害を軽減し、
咽頭から食道への食物の流れをコントロールする方法です。
代表的なものに、頭部屈曲、頭頸部屈曲、頭部回旋、
リクライニング位、体幹回旋などがあります。

3) 段階的直接訓練
 直接訓練では、安全な条件で一連の摂食動作を通じて訓練を進めることで、
総合的な機能向上をはかることができます。
原疾患が重症である、高齢者などでは、特に全身状態に注意を払いながら実施し、
意識・覚醒や呼吸状態などに危険なサインが見られる場合には、
訓練の休止や訓練の段階を下げるなどの判断が必要となります。
訓練の段階とは、上記で述べた食形態、姿勢に加えて一口量、総摂取量、
食事環境などについて、機能向上に伴って「安全な範囲」を広げていくことを意味します。

前回紹介した間接訓練と、この直接訓練とを組み合わせて
リハビリテーションを行なっていきます。
次回は小児の摂食・嚥下リハビリテーションについてご紹介します。