こんにちは。
訪問診療担当の岩本です。
訪問診療の現場で「食が進まないので、もっと食べられるように入れ歯を作ってください」と依頼されることがあります。
「食べないのは歯が無いから」
「入れ歯を作れば昔のように何でも食べられる」
とお考えなのだと思います。
ですが、「食べる」ことはなかなか複雑な運動で、歯さえあれば、という話でも無いのです。
今回はその事についてお伝えしたいと思います。
「食べる」動作は複数の運動から成り立っています。
順に挙げていきます。
1. 食べ物を認識し、口を開ける力
まずはここからです。口もとにスプーンを近づけても固く唇を閉ざしたまま、というのは「食べたくない」の意思表示に見えますが、実は「食べ物と認識できていない」可能性もあります。
2. 噛む力(咀嚼力)
歯があっても、あごの筋肉(咀嚼筋)が弱っていると、しっかり噛むことができません。
特に高齢者は筋力が落ちやすく、噛む力も衰えます。
3. 唾液を分泌し、食べ物をまとめる力
噛み砕いたものはそのままでは飲み込めません。唾液と混ぜ合わせ、舌や頬の筋肉でひとかたまりにまとめる力が必要です。
高齢になると唾液が減り、この作業が難しくなります。
また、舌がうまく動かせないと、咀嚼はしているのに口の中で食べ物はバラバラなまま、いつまでも飲み込めなくなります。
4. 飲み込む力(嚥下機能)
食べ物を「口に入れて」「噛んで」「まとめた」後は、舌やのどの筋肉でうまく飲み下す必要があります。
この機能が低下すると、飲み込むまでに時間がかかったり、食べ物が気管に入る「誤嚥(ごえん)」を起こすことがあります。
5. 口の中の感覚、認識力
舌や口の感覚が鈍くなったり、認識力の衰えがあると、食感が分かりにくくなり、大きい塊など、飲み込める状態にないものを無理に飲み込んで誤嚥してしまうことがあります。
また、口の中で義歯が外れてもそれを認識できない場合は、義歯を飲み込んでしまうこともあります。
このように「噛む・感じる・唾液で湿らせる・飲み込む」といった全体の機能が協力してはじめて安全に食べられるのです。
入れ歯を入れたほうが食べられるようになるかどうかは個人差がありますので、個々に検討し、治療方針を決めていくことになります。