その薬、抜歯の前に止めなくて大丈夫?ver2

タニダ歯科医院ブログ

西宮市の「タニダ歯科医院」がお送りするブログです。

その薬、抜歯の前に止めなくて大丈夫?ver2

こんにちは。歯科医師の西田です。
夏休みが目前ですね。
皆さまは夏期休暇のご予定は立てられましたか?

さて、今日のお題は、「その薬、抜歯の前に止めなくて大丈夫?」です。

以前は、抜歯の前に内科の先生に相談して、止めて頂くお薬がありました。
しかし、この頃ではお薬を止めることによる弊害を防ぐために、
止めずに抜歯をすることもあります。
今日は、そのようなお薬、骨粗鬆症薬についてのお話です。

超高齢化社会を迎え、骨粗鬆症の適切な治療により高齢者の骨折を予防するために、
現在、さまざまな治療薬が使われています。
骨粗鬆症治療は長期にわたるため、骨の吸収を抑えることで
骨を強くする薬剤「骨吸収抑制剤」を使用する機会が多いようです。
この「骨吸収抑制剤」を使用している場合、
歯科での治療で「顎骨壊死」という副作用のお話しを聞くことがあり、
不安になることがあるかもしれません。
「顎骨壊死」への対応策として、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死のポジションペーパー(方針書)が
2016 年に発表されましたが、その後も患者数は増加傾向であり、
予防や治療に関するエビデンスが蓄積してきたことから、2023年に新たなポジションペーパーが作成されました。
新しいポジションペーパーの概要は以下のようです。
①顎骨壊死発症の契機として歯性感染症を重視
以前は抜歯などの外科処置がきっかけとなり、顎骨壊死が起こると考えられていました。
ところが、最近の考え方では、「歯周病や根尖病変などの炎症性歯科疾患があることがリスク」であり、
「抜歯は顎骨壊死の発症を促すのではなく、顎骨壊死を顕在化させる」と考えられるようになりました。
歯周病や深い虫歯のため、歯茎や歯の周りの骨で炎症が起きていることが、顎骨壊死のきっかけとなると考えられるようになりました。
②原則として抜歯時に骨吸収抑制薬を休薬しないことを提案
抜歯前2-3カ月間の低用量ビスホスホネートの休薬でもビスホスホネート関連顎骨壊死の発症が
有意に減少しなかったことや、骨吸収抑制休薬による待機期間中に顎骨骨髄炎や顎骨壊死が進行するリスク、
また骨粗鬆症性関連骨折のリスクが上昇することより、現状においては休薬の有用性は示されませんでした。
要は、骨粗鬆症薬の使用を止めても顎骨壊死は起こることがあり、薬の休薬により骨折のリスクが上がり、
健康な生活が損なわれる可能性があることが、示されたのです。
一部のハイリスク症例を除いて、「原則として抜歯時に休薬は不要」と考えられております。
③医歯薬連携の充実を図り、骨吸収抑制薬投与開始前に歯科の受診を強く推奨
医科と歯科の連携は今や不可欠です。
医科の先生と連携を取って治療を進めさせて頂きます。
お口の中を清潔に保つことにより顎骨壊死のリスクは低下することがわかっており、
虫歯があったりして抜歯などの治療が必要な人には、骨粗鬆症薬の開始前に歯科で治療を行うことが大切です。
また、骨吸収抑制剤の治療中に抜歯が必要となった場合、基本的にはお薬の中止は不要と考えられています。
投薬前のみの医科歯科連携ではなく、投与中の密な医科歯科連携と口腔衛生管理も行っていきます。
以下のお薬は顎骨壊死に関連が強いと言われています。是非私たちにお知らせ下さい。

• ビスホスホネート
ゾメタ®、アレディア®、テイロック®、フォサマック®、ボナロン®、アクトネル®、ベネット®、ビスフォナール®
ボノテオ®、リカルボン®、ボンビバ®

• デノスマブ(抗RANKL抗体製剤)
ランマーク®、プラリア®

• ロモソズマブ
イベニティ®

その他、抗がん剤、分子標的治療薬など

「顎骨壊死」の確率は1万人~10万人に数人と極めて低い頻度です。
リスクを恐れて骨粗鬆症の治療を中止するのは患者様にとって不利益が大きいと考えられています。
決して自分判断で骨粗鬆症の治療を中断しないようにお願いします。
また、口腔内の定期的なクリーニングを行うことで顎骨壊死の発症リスクは低下しますので、
治療終了後も歯科の定期検診は続けて頂きたいと思います。